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空気感染を防ぐための空間除菌は、次亜塩素酸水では不十分?
新型コロナウイルスを機に「空間除菌」が一気に知られることとなりました。空間除菌とは、一般のご家庭では、加湿器などに次亜塩素酸水などを入れることでお部屋の空気を除菌しようという試みです。
しかし、世間にあふれている「除菌力・殺菌力」のデータは「接触感染」のデータであることをご存知ですか?この記事では、新型コロナウイルスの3つの感染、接触感染、飛沫感染、空気感染の違いを解説し、空間除菌に適した消毒液とはどのようなものか、について解説します。
接触感染、飛沫感染、空気感染とは?
ウイルスの感染経路には接触感染、飛沫感染、空気感染の3種類があります。
- 接触感染
「接触感染」とは、感染者から出たウイルスを含む唾液や体液に触れることで感染します。例えば、咳をする時に口を手で押さえ、その手で触ったドアノブに、他の人が触れることで感染するのは、接触感染です。
- 飛沫感染
「飛沫感染」の飛沫とは、人が咳やくしゃみをしたときに口から飛び出す小さな水滴です。この水滴にウイルスが含まれていた場合、これを吸い込むことで感染するのが飛沫感染です。
- 空気感染
「空気感染」は、別の言い方では飛沫核感染といいます。飛沫の水分が蒸発した「飛沫核」を吸い込むことで感染します。飛沫は水分を含んでいるため地面に落ちますが、飛沫核は軽く、長時間空気中に浮遊することになります。
新型コロナウイルスについては、空気感染はしないという意見が多く発表されています。しかし、いわゆる「3密」の状況下では、空気中にウイルスがエアロゾルの状態で3時間以上生存するという研究結果も発表されています。
次亜塩素酸水とは?その殺菌・除菌力*とは?
次亜塩素酸水とは、塩酸または塩化ナトリウム水溶液を電解することで得られる、次亜塩素酸を主成分とする水溶液です。
その製造方法から一般的に電解水と呼ばれていますが、食品添加物の指定を受けた際に、次亜塩素酸水として命名されました。
食品添加物にもさまざまな用途がありますが、次亜塩素酸水の食品添加物の主な目的は「殺菌」です。甘味料や着色料のように、食品に混ぜて使うものではありません。
食品添加物や化学物質、薬品など全てに言えることですが、人間にとって効果がある(殺菌できる)ということは、害もある(用法・容量を守らなければ、人間の細胞にとって害がある)ということです。この境界線はどこにあるのか研究され、食品添加物として、正しい使用下で利用されるよう、指定されています。
実際に、次亜塩素酸水は、食品添加物の規格基準では『次亜塩素酸水は、最終食品の完成前に除去しなければならない』とありますので、「食品添加物だから食べても安全」とはなりません。
次亜塩素酸水の有効性については、厚労省が行った殺菌効果を示すデータがあります。
この試験方法は、培養した大腸菌、黄色ブドウ球菌、MRSA、サルモネラ菌、緑膿菌、レンサ球菌、枯草菌、カンジダ、黒コウジカビの各種微生物などに微酸性次亜塩素酸水(pH5.2、有効塩素濃度 57mg/kg)を「添加」した場合のデータです。つまり「接触感染」です。
次亜塩素酸水については、ウイルスや細菌に「当たれば」殺菌する効果があるという実験データです。
このことと「空気感染」を防げるかどうかということは、全く別の話です。なぜなら、次亜塩素酸水は、常温・常圧下では「液体」だからです。
飛沫が飛ぶ距離は2~5m程度と言われていますが、水分のため落下します。そのためソーシャルディスタンシングが感染を防ぐために有効ということになります。
飛沫の落下速度は(無風状態で)30~80cm/秒であることから(文献1,2),立った状態の成人の口から出た飛沫が地面に落ちるまでの飛距離は2~5m程度ということになります。医学領域においては,よく飛沫の飛距離は1m以内と言われますが,これは飛沫感染,つまり保菌者の口から出た飛沫が周囲の人の口や鼻に到達して感染を引き起こしうる距離のことだと考えられます
同じ論理で言いますと、次亜塩素酸水も空気中に浮遊することはないのです。空気清浄機などの噴霧装置のごく近い周辺で、ウイルスが次亜塩素酸水に「当たれば」殺菌効果はあると考えられます。
二酸化塩素とは?その殺菌・除菌力*とは?
二酸化塩素(分子式:ClO2)は、非常に反応性(酸化力)が高い物質です。二酸化塩素ガスは次亜塩素酸ナトリウムの約2.5 倍の酸化作用を有し、芽胞を含むすべての微生物に有効です。
二酸化塩素の話に入る前に、二酸化塩素と安定化二酸化塩素の違いについて知っていただく必要があります。
二酸化塩素自体は、常温において気体(ガス)です。そのため、長期保存には向かず、流通するために安定化・水溶液化したものが安定化二酸化塩素です。
安定化二酸化塩素を製造する手法は各社によって異なっており、安定化二酸化塩素は二酸化塩素と塩素系酸化物の混合品であるため、特定の化学式で表される化学物質ではありません。
二酸化塩素が化学物質であるのに対し、安定化二酸化塩素とは商品名(一般名称)である、と考えると分かりやすいと思います。
そのため、安定化方法、二酸化塩素ガスの放出度、効果などはメーカーによって異なります。
昨今、たびたびニュースで目にされていると思いますが、二酸化塩素を使用した首掛け式の除菌アイテムや、卓上に置くタイプの除菌剤、それらも「二酸化塩素」ではありません。
二酸化塩素を安定化させ、商品として流通できるようにしたものです。ですから、「二酸化塩素は殺菌力がない」という報道は間違っており、二酸化塩素自体はたしかに殺菌力があるのですが、それら商品から、安定的に、殺菌に必要な量の二酸化塩素を放出できているかどうか、が各製品によってバラツキがあるということです。
これは、においがよく取れる脱臭剤もあれば、とれない脱臭剤もあることと同じで、二酸化塩素そのものではなく、商品の構造またはコンセプトの問題です。
二酸化塩素は、下記のような分野で殺菌料として使用されています。
分 野 | 用 途 | 備 考 |
製紙業界 | 紙パルプの漂白 | ECF漂白(塩素ガスを使用しない環境負荷が低いと言われているパルプ漂白法)への使用。 |
飲料水 | 摂取 | 耐容一日摂取量(TDI)が29 μg/kg 体重/日(亜塩素酸イオンとして)と設定されている。 |
食品添加物 | 小麦粉処理剤 | 成分規格なし |
遊泳用プール | プール水の消毒 | 二酸化塩素濃度は0.1 mg/l以上、0.4mg/l以下であること。 ※亜塩素酸濃度は1.2mg/l以下であること。 |
浄水 | 消毒 | 水道水での使用実績はなし |
医療 | ガス滅菌器 | 該当製品はなし。 |
雑貨 | 除菌用品* | 規定なし。 *:医薬品、医薬部外品ではありません |
(社団法人 日本二酸化塩素工業会)
「効果があるものは、すなわち害もある」ということと、「食品添加物だからと言って安全とは言えない」、ということは、次亜塩素酸水と同じです。 また、これら殺菌の試験も、次亜塩素酸水と同じく接触感染への効果であり、空気感染を防ぐ空間除菌の話ではありません。
次亜塩素酸水、二酸化塩素の空間除菌を目的とした際の違い
さて、空間除菌を目的とした場合、次亜塩素酸水と二酸化塩素には、決定的な大きな違いが一つあります。
それは、次亜塩素酸水は常温・常圧下で「液体」であり、二酸化塩素は「気体」だと言うことです。
二酸化塩素はガスであり、そのままでは流通できないため、安定化されて液体として流通されます。そして、その液体から二酸化塩素ガスを発生させる方法はいくつかあるのですが、例えば紫外線があります。
二酸化塩素を噴霧することで紫外線をうけ、水溶液から二酸化塩素ガスが発生します。二酸化塩素ガスは、空気よりも重い気体ですので、液体ほどではありませんが、徐々に地面へと浮遊しながら降りていきます。
そこでサーキュレーターのような装置で空気を巡回することで、部屋の隅々まで浮遊することができ、ウイルスに「当たる」確率が格段と高いと考えられています。
「考えられています」というのは、次亜塩素酸水にしても、二酸化塩素にしても、空間除菌に関する公的な試験データは日本・世界を見ても見つけることができないからです。
参考になる資料としては、大幸薬品が「A型インフルエンザウイルス感染に対する低濃度二酸化塩素ガスの防護効果 (Ogata N. and Shibata T.J Gen Virol 89. 60-67 (2008))」として発表された論文の中にあります。
A型インフルエンザウイルス感染に対する低濃度二酸化塩素ガスの防護効果
緒方規男、柴田高
Journal of general virology,89(pt1) 2008,60-67
インフルエンザウイルス感染症は、人類の病気と死亡の主な原因の 1 つである。ヒトにお
いて、このウイルスは、呼吸器系から排出されるエアゾールを介して、感染拡大する。現
在のインフルエンザウイルス感染予防に対する手段の有効性は限定的であり、満足できる
ものではない。パンデミックインフルエンザに対する安全かつ有効な予防手段が望まれて
いる。我々は、インフルエンザA型ウイルスのエアゾールによって誘発されたマウスの感
染が、極度に低い濃度(長期暴露においてヒトが許容されるレベル、すなわち 0.1 ppm 以
下)での二酸化塩素(ClO2)ガスによって予防されたことを報告する。
半閉鎖系ケージ内にマウスを入れ、15 分間インフルエンザA型ウイルスのエアゾール(1LD50)のみ、またはこれと ClO2ガス(0.03ppm)を同時に暴露した。暴露 3 日後に、処理を受けなかった 5
匹のマウスにおける肺中ウイルス力価は 106.7±0.2 であったのに対し、ClO2 で処理される 5匹のマウスにおけるウイルス力価は 102.6±1.5であった(p = 0.003)。16 日後の累積死亡率は、ClO2で処理されたマウスでは 0/10 に対し、処理を受けなかったマウス 7/10 であった
(p = 0.002)。
in vitro 実験において、ClO2はウイルス感染のために不可欠である、ウイルス膜タンパク(赤血球凝集素とノイラミニダーゼ)を変性させて、感染性を無効にした。
まとめると、我々は、マウスにおいて、ヒトに許容される暴露レベル以下の低濃度で、二酸化塩素は、ウイルス膜タンパクを変性させることによって、エアゾールによるインフルエンザウイルス感染の予防に有効であると結論づける。この結果より、ClO2 ガスは、ヒトを退去させることなく、ヒトが活動する空間において、インフルエンザに対する予防策と
して極めて有効であることが示唆される。
これは、二酸化塩素を暴露した空間に居たマウスの肺の中のウイルスは、二酸化塩素を暴露していない空間に居たマウスと比較して減少していた、という空間除菌の試験データです。二酸化塩素ガスが空間除菌に有効であることを示す希少なデータです。
再度ですが、このことは「二酸化塩素を使用した首掛け式除菌アイテムが有効である」ということではありません。二酸化塩素を安定化させて商品にしたものはたくさん市場に出回っていますが、「どの程度の二酸化塩素を、安定的に空間に放出できるのか」という構造が考えられていなければ、効果はないでしょう。
二酸化塩素を使った空間除菌の安全性について
次亜塩素酸水は、空気中を浮遊することなく、液体は床に落下すると考えられます。
二酸化塩素は気体のため、長時間低濃度の二酸化塩素ガスに暴露されることの安全性、という話題が出てきます。
二酸化塩素の殺菌料としての安全性は、下記のような世界的機関から認定をうけています。
二酸化塩素の安全性に対する公的認定
機関 | 認定内容 |
WHO(世界保健機構) | A1クラス |
FDA(米国食品医薬品局) | 食品添加物・医療用消毒・医療機器消毒使用許可 |
NASA(米国航空宇宙局) | スペースシャトル内及び宇宙食の完全滅菌に採用 |
HACCP(米国食中毒予防計画) | 食中毒発生危険度の高い食肉消毒に公式採用 |
しかし、これらも「吸い込む」ことの安全性ではありません。暴露に対する安全限界についての指針は、
労働安全衛生局(OSHA):8h/日の暴露限界(TWA:時間加重平均値)=0.1ppm
米国産業衛生専門家会議(ACGIH):8時間/日又は40h/週の暴露限界(TWA)=0.1ppm・15分間TWA(TEL:短時間暴露限界)=0.3ppm
があります。これらは作業場や工場などで二酸化塩素ガスを空間に放出する場合の安全のガイドラインとして設定されました。
0.1ppmを基準として、どのように空間除菌をマネジメントするか、設計をすることが重要です。この0.1ppmとは、空間における二酸化塩素ガスの濃度です。液体である安定化二酸化塩素溶液の200ppmや2000ppmは液体の濃度ですので、比較すべきものではありません。
当社では、二酸化塩素を消臭/脱臭に活かす二酸化塩素の含有溶液(安定化二酸化塩素水溶液)と、それを空間へ広く均質に噴霧する噴霧装置の製造・販売を行っています。イベント企画、オフィス、病院や介護施設など、3密が気になる企業様はご相談ください。また、当社の二酸化塩素含有溶液の殺菌および抗ウイルス試験データ(細胞毒性試験含む)は、下記よりダウンロードください。