スーパーヨウ素炭 物語

スーパーヨウ素炭(改良型ヨウ素酸添着活性炭)の開発に、情熱を傾けて参画した当社代表取締役の一居から、 その誕生秘話を聞き、「スーパーヨウ素炭物語」としてまとめました。

 

活性炭とは?

一般に活性炭の材料には、海外原産の「ヤシ殻」「石炭」などが使用されます。 その材料に、高温・高圧処理で大量にミクロの穴を穿つ「賦活」という加工によって、 吸着性能をもつ「活性炭」が作られています。

そうした活性炭のもつ物理吸着の性能は、今では基本的に、 どこのメーカーで製造しても同程度です。 また、その製造はほとんど東南アジアや中国で行われております。活性炭について詳しくはこちら

ところが活性炭は、臭気成分(ガス)の種類や濃度によって吸着量に差異が発生します。 そこで、活性炭の物理吸着だけでは対応が難しい場合、臭気(ガス)を取るために、 活性炭に何らかの化学薬品を添着した「添着炭」というものを使います。この「活性炭」の「添着炭」への加工は、ほとんどが日本国内で行っており、 性能を高めるべく多くの活性炭メーカーが競い合っています。

 

ヨウ素炭とは

活性炭に添着する薬品には様々なものがあります。 当社が注目しているのが、「ヨウ素(I)」のオキソ酸と呼ばれる化合物の一種で、 水溶液の「ヨウ素酸(HIO3)」という薬品です。

「ヨウ素」というのは、酸化還元力が強く、フッ素・塩素・臭素などとともに ハロゲンと呼ばれ、その化合物は酸性のガスを分解する力、 つまり、脱臭する力が非常に強い物質です。

フッ素・塩素・臭素といった物質は、すでに各社が取り扱っていて、以前よりメーカーから 各種商品が出ていますが、ヨウ素に関しては、当時だれも手を出していませんでした。 それは、ヨウ素という資源の生産量は世界的に少なく、希少価値のとても高い、 価格の高い鉱物だからです。

ヨウ素は、主に硝石という鉱物や海藻、地下数百メートルから天然ガスとともに汲み上げられる 「かん水」の中に含まれており、近年、液晶ディスプレイや薄型太陽電池などの付加価値の高いものにも使われております。

幸いにも、日本はチリやアメリカ等と並ぶヨウ素の資源国であり、 海外へも輸出するほどですが、地下から汲み上げた何トンもの「かん水」から 僅かにしか取れない貴重な鉱物には変わりなく、 このヨウ素を水溶液にした「ヨウ素酸」を添着した活性炭を「ヨウ素炭」といいます。

 

ヨウ素炭の開発経緯

今からおよそ30年前、大手建設会社の清水建設㈱の研究所内において、 「活性炭にヨウ素酸を添着」する実験が行われ、 「ヨウ素炭」という活性炭が発明されました。 (特許番号 1404235, 1732650, 1887879)

清水建設㈱ではこの頃、室内環境の改善に関わる研究が多くなされ、 その一環として「におい・かおり」に関する研究論文の発表や特許取得が盛んに行われました。

しかし、「ヨウ素炭」については自社の事業に活用されることはなく、特許取得後10年以上も お蔵に入ったまま、世間に知られることはありませんでした。 もちろん、どこの活性炭専門メーカーも、値段の高い「ヨウ素(酸)」を活性炭に添着する、 などといったことは全く考えなかったようです。

「ヨウ素炭」が世に出るようになったきっかけは、知的財産部にかかってきた一本の電話です。 発明から10年が経ったころ、「ヨウ素炭」の技術資料に目を留め、 とても興味をもたれたT氏から、この「ヨウ素炭」を是非扱ってみたいとの要請が 清水建設にあったのです。

T氏は「ヨウ素炭」の良さを世の中に理解してもらうため、大手プラント会社を巻き込み、 性能比較を行うための実験装置を下水処理場に持ち込み、1年以上もの間実験を繰り返し 「ヨウ素炭」の優れた性能を立証したのです。 その後、少しずつ「ヨウ素炭」が世の中に認知されていくことになります。

それから10年。「ヨウ素炭」は、他の活性炭では対応できない、比較的濃い臭気が 排出されている下水処理施設の脱臭に採用されるケースが増加しております。

 

ヨウ素炭の特長

ところで臭気は単一のガスというものはほとんどなく、成分を分析すると、 種々の臭気物質が混ざっている複合ガスであることがわかります。

臭気成分を大きく分けると、酸性ガス、塩基性ガス、中性ガスの3つに分類されますが、 これらの性質の違った臭気を同時に除去するために、複合ガスの発生する下水処理場等では、 酸性ガス用、塩基性ガス用、中性ガス用の3種類の添着活性炭を3層に積んで対応しております。

ところが「ヨウ素酸」を添着した「ヨウ素炭」は、硫化水素などの酸性ガスが良く取れるだけではなく、 塩基性ガス、中性ガスも、同時に除去することができる添着炭なのです。

3層に積んだ3層炭と、1層で処理できる「ヨウ素炭」では、何が変わるかというと、 その使用量です。

活性炭は、敷き詰めた層が薄すぎると、隙間から臭気がどんどん抜け出てしまうため、 1層当たり30㎝以上積む必要があります。 そうしますと、3層合わせた場合、どうしても1m近くの厚みになってしまいます。 その量が脱臭に必要かどうかにかかわらず、3層の場合、多くの活性炭が必要になります。

ところが、「ヨウ素炭」は1層で3種類のガスに対応しますので、極端なことをいえば、 厚みは30㎝程度あれば良い、ということになるのです。つまり、3分の1で良いわけです。

「ヨウ素炭」の評判は、複合ガスを一種類の活性炭で処理できる、という画期的な特長によって 世の中に認知されていきましたが、酸性ガスの吸着性能に比べ、塩基性ガス、中性ガスについては それぞれの特殊機能活性炭の能力を凌駕するものではありませんでした。

高い濃度の塩基性ガス、中性ガスの除去に対しても、さらに能力を高めた完全な一層炭にするには 更なる改善が必要でした。



スーパーヨウ素炭の開発

清水建設の研究所では、「ヨウ素炭」が一層炭としての能力を持っている ものの、塩基性ガス、中性ガスに対する吸着能力をさらに高められれば、 もっと使い勝手の良い活性炭になると考えておりました。

そこで「ヨウ素炭」の特許が切れる平成18年1月を見据え、 「ヨウ素炭」の特長である「一層炭」としての性能をさらに高めた、 新しい活性炭の開発に平成15年1月より取り掛かりました。

もちろん昔から使い古され、いろいろ研究されつくされている吸着材料である 活性炭の改良は、とても難しいということは覚悟の上でのスタートでした。

まず、何故「ヨウ素酸」を添着した「ヨウ素炭」は他の添着炭に比べ複合臭気に強いのだろうか、「ヨウ素酸」はどんな役割を果たしているのだろうか、 これら脱臭のメカニズムの解明のため、新たに実験に取り掛かりました。

約1年間の試行錯誤の結果、ある工夫を加えることで「ヨウ素炭」の性能を 更に向上させられることが分かり、実験を繰り返した結果、 従来の「ヨウ素炭」に比べ、酸性ガス用、塩基性ガス用、中性ガス用の 3種類の専用活性炭のいずれのガスの吸着量をも大幅に超える活性炭が出来上がりました。

清水建設はすぐにこの試験結果をまとめ、特許出願(平成15年12月)を行い、 その後平成22年12月特許を取得しました。 (特許番号 第4639276号 : 脱臭剤、その製造方法および脱臭装置)

この活性炭はスーパーヨウ素炭(i-DAC)と命名され、 その販売はアイダッシュ株式会社に委ねられました。

 

「ヨウ素炭」の問題と「スーパーヨウ素炭」の改良点

新たに実験を繰り返した結果、「ヨウ素炭」に添着している「ヨウ素酸」の 役割と問題点が徐々に見えてきました。

それは、臭気ガスの中に硫化水素のような還元性の強い臭気成分が多く 含まれていますと、酸化剤として機能する「ヨウ素酸」が選択的に消耗され、 中性成分(硫化メチル、二硫化メチル)の除去に有効に機能しなくなるという問題です。

つまり中性成分の除去機能を高めるには、酸性成分の除去に要する 「ヨウ素酸」の消費量をいかに抑えるかが重要であるということがわかりました。

試行錯誤の結果、「スーパーヨウ素炭」はこの問題に対し、「金属ヨウ素」 を同時に添着することで、硫化水素を吸着した部分が触媒となるような機能を持たせ、 一種類の活性炭(スーパーヨウ素炭)で 硫化水素、メチルメルカプタンのような酸性成分に対しては酸化触媒として、 硫化メチル、二硫化メチルのような中性成分には「ヨウ素酸」が強力な酸化剤として、 またアンモニア、トリメチルアミンのような塩基性成分に対しては、 無機酸(硫酸、塩酸、等)が中和剤としての機能を発揮できるように改良しました。

 

「スーパーヨウ素炭」による脱臭機能

「スーパーヨウ素炭」は、一種類の特殊活性炭ではありますが、 ヨウ素酸(HIO3)のほかに金属ヨウ素(I2)を添着することにより、 最初に還元性の強い硫化水素と反応した部分が脱硫化水素触媒として 作用し、酸化剤であるヨウ素酸(HIO3)が硫化水素により消耗されないように バリアとして機能するように調整されております。

この調整のために工場内に新たな専用炉を設け、金属ヨウ素、 ヨウ素酸、無機酸の添着量、添着順番、効率的な添着方法等について 実験を繰り返し行い、最も効率のよい製造方法を見出すのに かなりの時間を費やしました。

この結果、ガスの上流側では脱硫化水素触媒、下流側では硫化メチルなどの 中性成分に対して強力な酸化剤として分担して機能する、 言わば2段階吸着方式と言える吸着性能の大幅に改善された 「スーパーヨウ素炭」が出来上がりました。

 

「スーパーヨウ素炭」の優位性

ここで改めて「スーパーヨウ素炭」の活用による脱臭の優位性を整理してみますと、

  1. 「スーパーヨウ素炭」は、一種類の活性炭で脱臭処理することができることにより、 脱臭装置の構造が非常に簡単になり、設備費が小さくなるのみならず、 交換頻度も少なくなることで維持管理費が低減し、総合経済性が向上します。
  2. 使用済みの「スーパーヨウ素炭」は再生し、ヨウ素酸等を再添着することで、 繰り返し使用することができます。 また添着されていた「ヨウ素酸」は回収システムの確立により 「ヨウ素」として取り出し再利用することができます。
  3. 「ヨウ素酸」は強力な酸化剤でありますが、腐食性や毒性が弱く、 非常に安全に使用することができます。
  4. 特殊製法により、ヤシガラ系活性炭、石炭系活性炭、木質系その他活性炭など 殆どの活性炭に添着加工することが可能です。


スーパーヨウ素炭の現状

現在「ヨウ素炭」は、気相用活性炭の最大の市場分野である 下水処理施設において、高品質のブランド活性炭として 他の活性炭に比べ、より高い価格帯で予算化されております。

しかしながら一般競争入札の制度のもと、 熾烈な価格競争が繰り広げられる中で、 「ヨウ素酸」ではなく、 安価なヨウ素化合物を添着した名ばかりの「ヨウ素炭」や性能の裏付けのない「ヨウ素炭」も多く出回るようになっており、 品質を置き去りにした、値下げ競争ばかりが目立つ市場に 変貌しつつあるように感じております。

一方特許権に守られた「スーパーヨウ素炭」は、 特に中性ガスに強い一層炭という利便性が評価され、 従来の「ヨウ素炭」では除去しきれない 比較的濃度の高い複合臭気を排出する水処理施設 あるいは工場などで使われるケースが増してきております。

価格に対しましても製造方法の工夫や製造過程での 細かいコストダウンを繰り返し行い、 従来の「ヨウ素炭」と遜色のない価格を実現しております。施設のライフサイクルコスト低減が重要視される中、 従来と同程度の費用で2年以上交換不要(10年間のコスト1/3)の 「スーパーヨウ素炭」は、確実に運営コストの低減に 貢献できるものと考えております。